何故、甲子園干潟にはゴカイがたくさんいるのか? 
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 甲子園浜の東部から中央部分に遠浅の干潟がある。干潟とは広い潮間帯(干潮時には陸に満潮時には海中に沈む場所)を指すが、このような場所は植物プランクトンや海ソウ(甲 子園干潟ではアナアオサ)などの生育に適している。その理由は、遠浅なために日光がよく当たること、エアレーション効果(満潮時に海水が流れ込み空気がよくとけ込むこと)により空気がよくとけ込んでいること、塩類が豊富であることなどが上げられる。植物プランクトンが多いということは、それを食べたり死骸を分解したりする原生動物やバクテリアも増加する。さらにそれを食べるカニやゴカイも増える。カニやゴカイが増えれば、それをねらってシギやチドリなどの水鳥がやってくるというわけだ。  「干潟は生きている」(岩波新書)の著者である栗原康さんによると、蒲生干潟では夏の調査で1平方メートル当たり、多いところでゴカイやシダレゴカイを中心にゴカイの仲間が6000匹も見つかったという。膨大な数のゴカイが干潟には生息している。しかし、当然と言えば当然である。甲子園干潟に舞い降りるシギチドリの仲間は延べの個体数なら1時期で千羽を越える。それらの鳥たちがひっきりなしにゴカイをついばむにも関(かか)わらず、ゴカイがいなくなったという話は聞かないからである。顕微鏡で見つかる微少なゴカイも数に入れれば、1平方メートル当たり、6000匹のゴカイが見つかっても不思議ではないのだ。
 甲子園干潟に行ってみよう。石をひっくり返したとき、たくさんのカニがガサガサうごめいて、びっくりするだろう。何百というカニが慌てふためいてはい出すのだ。ここには、イソガニ、ケフサイソガニ、ヒライソガニ、ヤドカリ、チチュウカイミドリガニ、イシガニなどの甲殻類がいる。これだけのカニがびっしりついているのだから、シギがカニをいくら食べても、カニがいなくなることはないと納得する。カニやゴカイだけではない。甲子園浜ではたくさんの貝も見つかる。マガキ、ムラサキイガイ、アサリ、イボニシ、サルボウガイ、カラマツガイなどである。とは言うものの、私の所属する会の会長である菊池典男(菊池貝類館館長)氏が昭和7年に調査されたときは、貝は93種類いたというから現在の17種類前後は寂しい限りである。菊池氏は海の水質が悪化したから貝が減少したのだと主張する。これからは工場排水や家庭排水が直接海に流れ込まないように施設を充実させること、人工的であっても浜や干潟の面積を広げることが貝を復活させるために必要であろう。


■ 甲子園干潟は海水を浄化している!

 下水処理方法を簡単に説明しよう。家庭や工場から出された下水は沈殿池に流し込まれ、そこで沈殿する大型固形物とうわ水に分離される。このうわ水に空気を送り込むと、バクテリアや原生動物が活発に動き出す。これらはうわ水内の有機物をどんどん食べ、繁殖し凝集体となって固まり、下に沈殿する。そのときできたうわ水は、比較的きれいなので放流する。バクテリアや原生動物の凝集体は汚泥と呼ばれる。従って、下水処理を行えば行うだけ、汚泥が増えることになる。 都市では汚泥が膨大な量になり、それをどう処理するかが、厄介な問題になっている。ところが、ゴカイはなんとこの汚泥を食べる。ゴカイは下水を浄化するのだ。1平方メートル内に生存するゴカイの数が約2000匹を下らないことを考えると、ゴカイは干潟全体では私たちの予想をはるかにこえる水質の浄化作業を行っていることになる。自然の干潟を残すだけで、水質浄化能力が保たれるというのだから、干潟を埋め立てるという行為は、まったく不経済で愚かなことと言わざるを得ない。  
 ところで甲子園の海岸線を埋立する免許は、いつ許可されたのかご存じだろうか。実は昭和4年のことであった(4・5・31 山下汽船(株)鳴尾川河口港とその地先の公有水面埋立免許取得)。そのときの埋立は戦争で中断されたものの、何度か更新され、形を変え今に生きてきた。このことから気づくことがある。開発計画は戦前の古いものであっても、ひとたび決定されたなら、その有効性に疑問が生じても、中止するのはなかなか容易ではないということである。その意味で甲子園浜が保護されたということは、素晴らしい出来事だ。